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京都地方裁判所 昭和50年(ワ)1224号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二原告は、被告による本件建物の建築は原告に対し通常受忍されるべき限度を超えた不利益を強いるものであつて違法である、と主張するので、まず右建物建築による原告の被害の有無、程度、右建物の建築された地域、原告の被害の回避可能性等違法性に関する諸事情について検討する。

1 日照、通風の阻害等について

(日照、通風の阻害)

<証拠>によれば、次の事実が認められ、<る。>

(一) 本件建物建築前の状況

本件建物建築前には、原告居住建物の南隣には僅かの空間をおいて木造二階建の訴外大八木某居住の建物(以下、旧建物という。)が存していたため、原告は右建物により、日照、通風ともある程度の被害を受けていた。但し、旧建物の位置は、西縁は原告居住建物のそれとほぼ一致するが、東西の長さが原告居住建物のそれより約五分の一程度短かいため、原告居住建物の東側約五分の一の部分はその南方に何ら日照、通風の障害がない状態であつた。

そこで、日照についてその阻害状況を具体的にみると、まず冬至においては、午前九時には原告居住建物の西南部分が日影に入りはじめ、正午にはその西側約五分の四の部分のうち南側半分が日影に入る(前記のような位置関係により、原告居住建物の東側約五分の一の部分は日影に入らない。)。そして、午後には徐々に東南部分に日影が移つていく。従つて、原告居住建物のほぼ北側半分の部分は終日日照を享受し、南側半分のうち東側約五分の一の部分は午前中は日照を受けるが午後は日影に入り、それ以外の部分は三時間以上の日影となる状況であつた。

そして、春分または秋分においては、午前九時から原告居住建物の西側に日影が及びはじめるが、影の長さが冬至より大分短かいため、一階の八畳の問より南に突き出ている部分しか影にならず、右入畳の間以北の部分は終日日照を享受しうる状態であり、夏至においては、一日を通じて日影になるのは原告居住建物の西南端にある離れの部屋の南端部分だけで、残りの大半の部分は終日日照を享受しうる状況であつた。

(二) 本件建物建築後の状況

本件建物による日照阻害は、旧建物によるそれと比べて総括的にいえば、旧建物が二階建で軒の高さが約六メートルであつたのが、本件建物は前記認定のように三階建である上に、その東北部分には更に塔屋が存し、塔屋部分で14.40メートル、それ以外で9.80メートルの高さとなつたことにより、日影の長さがこれに比例して伸びたこと及び旧建物のときは原告居住建物の東側約五分の一の部分はその南側に日照、通風の障害がない状態であつたのに対し、本件建物は東西の長さも原告居住建物より長く、その約四分の一程度東側に伸びた位置に建築されているため、東南及び南方からの日照、通風につき相当程度の影響を受けることとなつた。即ち、冬至においては、午前九時には原告居住建物の東南角と北西角とを結ぶ対角線の西側部分がほとんど日影に入り、午前一一時には原告居住建物のほぼ全体が日影に入つてしまい、午後になつて徐々に北西部分が日照を受け出し、午後二時にはほぼ右建物の南西角と北東角とを結んだ対角線の西側部分が日照を受け、更に時間とともに日照を受ける面積が広がつていくのである。従つて、右建物のほとんど全体(北縁部分を除く。)が三時間以上日影に入るようになつた。

そして、春分または秋分においては、右建物の南側約三分の一程度の部分が三時間以上日影となり、その北側で建物のほぼ中央線位までは日影一、二時間であること、そして北側半分は終日日照を享受しうる状況にあり、夏至においては、旧建物の存したときの状況と大差ない状況である。

(三) 本件建物建築前後の変化

従つて、右(一)、(二)を比較して本件建物建築による日照の影響をみると、その原因はいうまでもなく旧建物と比べての本件建物の高さと東西の長さにあるわけであるが、その影響の最も大きい冬至においては、旧建物のときは終日日照を受けていた部分が、本件建物により一時間もしくは三、四時間日影に入るようになり、終日日照をえられないかもしくはこれに近い部分が旧建物のときよりかなり広くなり、春分、秋分においては、旧建物のときは原告居住建物の南側の一部を除く大半の部分が終日日照を受けていたのが、本件建物によつて終日日照を受けるのは右建物の北側半分となり、また、夏至においては、旧建物から本件建物に変つたことによる日照の影響はほとんどみられない。

次に、通風についてみるに、原告居住建物との間の空地は本件建物も旧建物と大差ないようであるが、前記認定のように、旧建物のときは原告居住建物の東側約五分の一の部分は通風の障害がなく南風が入つていたのが、本件建物によりその南風は全面的に遮断されてしまうこととなつた。

以上のとおり認められる。

(その他の被害)

原告は更に、本件建物の屋上に設置されている冷却機の騒音と大型看板の電燈による生活妨害を主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う供述部分が存するが、右供述ではどの程度の騒音か明らかでないし、大型看板の電燈については、<証拠>によれば、本件建物の右大型看板は夜一〇時には消灯しているし、光も弱く、むしろ白川通りの中央分離帯上にある大型水銀燈の光の方が強く、また夜間中点灯されていることが認められるので、右水銀灯の影響の方が大きいとも考えられ、結局、原告主張のような被害はいまだこれを認め難いというべきである。

2 地域性について

<証拠>によれば、本件建物や原告居住建物の所在地は白川通りに面しており、白川通りは両側歩道、四車線の車道及び中央分離帯を有する主要道路であつて、本件建物の所在地付近は本件建物建築時は住居地域であつたが、その完成直後の昭和四八年一二月二五日には右白川通りに面する地域は近隣商業地域に指定されており(但し、白川通りに面する地域を東もしくは西に入つた地域は第一種住居専用地域に指定されている。)、右道路に面して三、四階建のビルが散在するほか、食料品店、洋装店等の店舗が並んでいることが認められ、右認定に反する証拠はない。

3 損害の回避可能性並びに原、被告間の交渉について

原告は、被告は本件建物と原告居住建物との空間を五〇センチメートルしか空けなかつたが、本件建物の南の道路までには二メートルもの空地を残しているのであるから、南に寄せて建築することが可能であつたはずであるし、塔屋の位置も本件建物の西部や南部に設置しえたはずであつたと主張する。

しかし、<証拠>によれば、原告は被告から依頼された建築業者に対し、右のような設計変更を要望したのであるが、被告側としては、本件建物は和風レストランであるから、南側の空地はその顧客等の車の駐車場として必要であつて、車のドアの開閉の都合上北側を空地にして利用するのでは無理であるし、南に余地を残さずに敷地ぎりぎりに建てることは南角地の効用を失うことになり、また、塔屋は通常階段室の上部に作るため、南に塔屋を設置すると南側に階段がくるので南面全部を壁とせざるをえなくなり、和風レストランとしては好ましくないのであつて、これらの理由から本件建物及び塔屋の位置になつたのである。(なお、原告は、塔屋の位置を本件建物の西部に設置することも可能であつたと主張するが、西北部に設置したとしても日照上は現在のような東北部に設置するのと同じであつて、原告にとつて日照上有利となるのは南部に設置することなのである。)

むしろ、被告は当初の設計では原告居住建物との空間が二〇センチメートル(壁心との距離)しかなかつたのを、原告居住建物の通風を考慮して、外壁で五〇センチメートル空けるように設計変更したこと及び旧建物と原告居住建物の地盤は道路面より約七〇センチメートル高かつたため、本件建物建築に際し、地盤を道路面にそろえることとし、地表を約七〇センチメートル削つた(その結果、原告居住建物の地盤からみれば本件建物の高さは約13.70メートルとなつた。)のであつて、これらの措置によつて原告の日照、通風の阻害の程度は若干緩和されたことが認められるのである。

4 建築法規違反の有無

<証拠>によれば、本件建物は原告居住建物との空地が二〇センチメートルと設計されていた段階で建築確認申請の審査を通過しているだけでなく、本件建物の高さは建築基準法上の高度制限の半分以下に制限されていることが認められ、これに反する証拠はない。

5 原告の仮処分申請

<証拠>によれば、本件建物完成前、原告は被告を相手方とし、京都地方裁判所に本件建物の北側四階部分(塔屋部分)の建築工事の禁止を求める仮処分の申請をしたが、被保全権利についての疎明がないとして却下されていることが認められ、これに反する証拠はない。

三以上の認定判断に基づいて、被告の不法行為責任の存否について判断する。

一般に、土地の使用権者がその地上に建物を建築することは適法な行為であり、これによつて隣接建物の日照、通風等が妨げられたとしても、それだけで直ちに不法行為が成立するものではない。しかし、すべて権利の行使はその態様ない結果において社会観念上妥当と認められる範囲内でのみこれをなすことを要するところ、権利者の行為が社会的妥当性を欠き、これによつて生じた損害が社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度を越えたときは、その権利の行使は社会観念上妥当な範囲を逸脱したものというべきであり、いわゆる権利の濫用にわたるものとして違法性を帯び不法行為の責任を生ぜしめるものといわなければならない(最高裁昭和四七年六月二七日判決参照)。

これを本件についてみるに、前記二、1認定の事実によれば、原告は本件建物の建築によつて、従来自己の居宅において享受していた日照、通風の生活利益はある程度侵害されているものというべきである。

そこで、右生活利益の侵害が社会生活上一般に受忍されるべき限度を越えるものであるか否かをみるに、以上認定の事実関係のもとにおいて、原告の受けている日照、通風の阻害の程度、本件建物の所在地付近の地域性、建築法規違反の有無、本件建物の性格、被告の損害回避に対する努力等本件に顕われたすべての事情を総合すれば、いまだ、被告による本件建物建築をもつて社会的妥当性を欠き、これによつて原告が被つた前記の如き被害が、社会生活上一般に被害者において受忍するを相当とする限度を越えたものとは認めることができず、被告の本件建物の建築をもつて違法性を有するものということはできない。

してみれば、その余の判断に及ぶまでもなく、原告の本訴請求は失当たるを免れない。

(野田栄一 山野井勇作 荒井勉)

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